分析コラム
前に行くのは騎手のせいか — 自分の記事を実測で覆した話
2026-09-10 公開 / 数字は毎朝の自動集計(113,080走)
この記事は訂正記事です
2026年8月21日に公開した「脚質の様変わりは読めるのか」で、私は見出しに「前に行くかは馬より騎手」と書きました。半月後、同じデータを馬の側から切り直したところ、順序が逆だったと分かりました。 何をどう間違えたのかを、数字を並べて説明します。
1. 8月に書いたこと
「脚質の様変わり」とは、普段は差し・追込の馬(主戦後方)が、当日だけ前(逃げ・先行)に回ることです。113,080走のうち18.9%で起きていて、起きた時の3着内は主戦どおりに走った時より明確に高い——ここは今も変わりません。
問題は「では出走表の時点で何が読めるのか」の答えでした。当時は騎手を見て、 その騎手の過去の全騎乗のうち実走が前だった割合(実走前方率)で3段に分けました。
| 鞍上の実走前方率(過去30騎乗以上) | 対象走数 | 前に行った率 | 行けた時の3着内 |
|---|---|---|---|
| 前方率 45%以上 | 5,060 | 29.0% | 57.1% |
| 前方率 30〜45% | 49,826 | 22.2% | 46.0% |
| 前方率 30%未満 | 53,907 | 14.9% | 36.0% |
きれいな単調で、上下の差は14.1%あります。ここから「読める信号は鞍上だ」と結論し、 見出しに「馬より騎手」と書きました。この表そのものは、今も正しいままです。
2. 馬の側から切ったら、差はもっと大きかった
今月、予想の内部で「その馬が今回前に行く確率」を推定するモデルを作りました。材料を並べて重みを学習させたところ、騎手の前方率にほとんど重みが付きませんでした。効いていたのは馬自身の前方率と、同じレースの他の馬の前方率(=先手争いの厳しさ)でした。
そこで8月とまったく同じ母数を、今度は馬自身の過去の前方率で3段に分けました。
| 馬自身の実走前方率(主戦判定と同じ3走以上) | 対象走数 | 前に行った率 | 行けた時の3着内 |
|---|---|---|---|
| 自身の前方率 25%以上 | 37,842 | 34.2% | 43.2% |
| 10〜25% | 26,180 | 16.9% | 41.6% |
| 10%未満 | 49,058 | 8.1% | 41.9% |
上下の差は26.1%。騎手で分けた時の14.1%より大きい。つまり単純に比べただけでも、馬の方が強い信号だったのです。 8月の私は騎手の表だけを見て、馬の表を作らなかった。それが最初の誤りでした。
3. 交絡——「前に行く馬」に「前に行かせる騎手」が乗る
ではなぜ騎手でもきれいな差が出たのか。前に行く馬には、前に行かせる騎手が乗りやすいからです。 2つが絡み合っていると、片方だけを見た表には両方の効果がまとめて映ります。これを交絡と言います。ほどくには、片方を揃えてもう片方を比べる—— クロス表にします。
| 前に行った率 | 騎手の前方率 高 | 騎手の前方率 低 | 騎手を揃えた時の馬の差 |
|---|---|---|---|
| 馬の前方率 高 | 42.0% | 33.8% | — |
| 馬の前方率 低 | 16.8% | 10.9% | — |
| 馬を揃えた時の騎手の差 | 馬高で +8.2% / 馬低で +5.9% | 騎手高で +25.2% / 騎手低で +22.9% | |
読み方はこうです。馬を揃えて騎手を比べると差は +8.2%/+5.9%。騎手を揃えて馬を比べると +25.2%/+22.9%。馬の効果は騎手の3倍前後です。
大事なのは、騎手の差はゼロにはならないことです。「騎手は関係なかった」ではありません。 正しくは「騎手より馬。ただし騎手にも上乗せはある」。 そして予想モデルに馬側の材料(自身の前方率・同じ距離帯での前方率・相手の前方率)を全部入れると、 騎手の重みはほぼ0まで落ちます——騎手が持っている情報は、馬側の材料でほとんど言い換えられる。 これが今回いちばん学んだことでした。
4. 予想の中身も作り替えました
このサイトの予想では、AIに渡す材料の中で「この馬は様変わるかもしれない」と名指しするフラグを使っています。 判定はこれまで「鞍上の実走前方率45%以上」でした。それを「その馬が今回前に行く確率が40%以上」に差し替えました。 過去の予想を同じ母数(主戦後方の7,311頭)で数え直すと——
| 判定のしかた | 名指しした頭数 | 当たった率 | 見つけられた割合 |
|---|---|---|---|
| 旧:鞍上の前方率 45%以上 | 555 | 38.6% | 12.9% |
| 新:前に行く確率 40%以上 | 637 | 62.5% | 24.0% |
名指しする頭数はほぼ同じまま、当たった率が38.6%→62.5%、 見つけられた割合が12.9%→24.0%。しきい値を30%〜50%のどこに置いても旧より良く、 どちらの指標でも上回りました。数字は2026年9月10日の実測です(この節の数字だけは 差し替え時点の固定値で、上の表と違って毎朝の自動更新ではありません)。
5. 教訓——単変量の表は、順序を語れない
8月の記事の数字は、1つも間違っていませんでした。間違っていたのは「AとBのどちらが効くか」を、Aだけの表で語ったことです。 交絡している2つの要因は、片方だけの表では必ず「両方効いているように」見えます。順序を語るなら、片方を揃えて比べる——今回それをやって、自分の見出しが逆だと分かりました。
このサイトは「データを回収して育てていく」ことを掲げています。育つというのは数字が増えることだけでなく、前に書いたことを自分で覆せることだと思っています。だから訂正は隠さず記事にします。 8月の記事にも訂正の断りを入れ、見出しから「馬より騎手」を外しました。
集計の定義:主戦脚質=その走より前の実走脚質の最頻値(3走以上で確定)。様変わり=主戦が後方(差し・追込)の馬が 当日の実走で前方(逃げ・先行)に回ること。前方率はいずれもその走より前の実績のみで計算(先の結果は使いません)。 騎手の前方率は過去30騎乗以上で判定。人気・オッズは予想には一切使っていません。